自分だけに集中した5分間

季節の変わり目だからだろうか。最近朝起きても体が重くて1月から復帰したばかりの仕事にもなんだか集中できない。

「やっぱり家庭と仕事の両立には気合が必要だな……」

彼女は朝からほんの少しだけ、心身共にじんわりと広がる疲れを感じていた。

もう今日は直帰しようか。

取引先で打ち合わせが早く終わり、保育園のお迎えまで、まだ30分余裕がある。

「少しだけ気分転換に」と心の中で小さく言い訳をしながら、彼女は何カ月ぶりかに有楽町のルミネへと足を踏み入れた。

“色の時系列”が洗練されたクローゼットのような空間

気分転換とは言ったものの、最近洋服はもっぱらネット通販で安いものを購入することが増えていた。

「若い頃はあんなにファッション雑誌を読み漁って、毎月のようにルミネに来てたんだけどな……」

気づけばこの春の流行も知らないままの彼女の視線に入ったのは、洗練された素敵な女性。

その女性が出てきた店を見ると、初めて見たショップにも関わらずつい足が止まる。「オシャレなパリ在住の女性の部屋」という雰囲気ながら、しかしキメ過ぎている堅苦しさがない。私はこう思うんだけどどうかな?といった、押し付けがましくない控えめな空気が感じられる。

並ぶ洋服は無造作に置かれているようでもあり、配色には計算しつくされたような精緻さも感じるのが彼女には不思議だった。

「まるで色の時系列」

ふとそんな言葉が彼女の頭に浮かぶ。

妙にかっこよすぎかな、と思いつつも、色が店の手前から奥に行くにつれて少しずつベージュからブラックまで徐々にグラデーションを彩るように並ぶ様子はどこか気持ちをすっと落ち着かせてくれた。

壁に飾られている写真を見て、独身の頃によく見ていた海外雑誌「VOGUE」や「Harper's BAZAAR」、アーティストの写真集のことを思い出す。写真の中に見たことのある「Peter Lindbergh」という写真家の作品があったからだ。

そうだ、海外のファッションに憧れて、パリに行くことが夢だった時があったんだよな。20代の頃だっけ。

今はアニメと絵本ばかり見ているけど、と心の中で苦笑しながら彼女は懐かしい気持ちを思い出していた。

着心地と流行の調和

ふと我に返り、目の前の洋服を手に取る。

現実にはいもしない、パリに住むおしゃれな女友達の部屋に遊びに来たような気持ちになってしまっていたけれど、ここはお店だったんだ。

こんな素敵な提案の数々を彼女も「ジブンゴト」として考えたいな、と思っていた。

仲間に入りたいという方が近いかもしれない。

最近はゆっくりと自分の身なりを気にする時間も以前ほどはなく、ネットでしか服を購入していなかったので、「ジブンゴト」を考えようと思った瞬間、ちょっとだけ緊張していることに自分でも驚く。

自分の服を選ぶだけで、なんだか罪悪感があるのはなぜだろう。

そういえば、20代の私は価格よりも自分が気に入ったかどうかで服を選んでいたはずだ。

今は……自分が装うことよりも、少しでも娘の豊かな成長ために時間もお金も使うことを考えている。

それは紛れもない幸せだが、たまには、少しくらいは、自分の心を豊かに弾ませてくれる服を手に取ってもいいんじゃないだろうか。

そう考えた彼女は、「週末の娘の誕生日で着るための服を探そう」と考えることで気持ちを落ち着かせた。

そうだ、夫の両親も遊びに来るし余裕を持っておもてなしするためにも、自分の気持ちがアガる服を身にまとって楽しみたい。そんな服、ないかな。

こんなにもふわっとしたテーマで服を探したのは初めてかもしれない……

しかし買うものをリストにして探すのと違って、妙にワクワクと気持ちが高揚するのを感じていた。

ふと、プリーツスカートが目に留まる。

「でも最近こんなキレイ系着てないな……」

鏡の前で躊躇していると、さりげなく店員さんが近づいてきた。

「そのプリーツスカート、シャイニーで揺れる度に綺麗なんですよ。流行のプリーツですけど、ひだも細かく作り込んでいるのでスタイリッシュに決まるんです。それから、」

と彼女はいたずらっぽく笑い、添えた。

「ウエストがゴムなんです。これが一番のおすすめポイントです」

彼女は驚いてついウエストを引っ張った。本当だ。これは大事。

どんなにオシャレでも、それだけではいけない。

母親になったら着心地の良さも重視するものなんだと知ったのはここ数年のことだけど。

仕事でも、プライベートでも余裕のある女性へ

だけどプリーツスカートだけでは今持っている服とあわせる自信がない。

何を合わせたらいいんだろう……

そんな彼女の心の内を読んだかのように、店員さんは丸みを帯びたトップスをすっと差し出す。

「このトップスは毎年出ている人気のものなんですけど、うしろにボリュームを持たせたデザインなので、女性らしく魅せることができて先ほどのプリーツスカートにもしっくりきますよ。ジーンズに合わせてもキマるんですけど、結構お仕事で着られる方も多いですね」

仕事でも着ることができるなら、毎日常に何か追われている気がするこの気持ちにも、ちょっと余裕ができるかもしれない。

そう思いながら、彼女は自分のことだけを考える瞬間がずっとなかったことに気づいた。

自分のことだけを考える時間が5分あっただけでこんなにも気持ちの変化があるんだ。

そう思って顔を上げると、店員さんが寄り添うように微笑んだ。

明日はこのトップスとプリーツスカートで出社してみようかな。

週末の誕生日会に着る前の予行演習、とまた小さく心の中で言い訳をしながら、彼女は少しだけ心が安らいでいるのを実感していた。

Shop Access

Shop Info

1er Arrondissement(プルミエ アロンディスモン)ルミネ有楽町店

11:00〜21:00

ルミネ有楽町に準ずる

03-6551-2050

東京都千代田区有楽町2-5-1 ルミネ有楽町 3F

有楽町駅 徒歩1分/鉄銀座駅 徒歩1分

※取材時期や店舗の在庫状況により、掲載している情報が実際と異なる場合があります。 商品情報や店舗の詳細については直接店舗にお問い合わせください。
Editor 松本果歩
Photographer 有本真大

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