その生活道具は、野に出て草花をつむように

私と暮らす道具だから、目で見て触って、選びたい。

井の頭線を降り、彼女が向かうのは、吉祥寺駅から末広通り沿いに佇む『器と道具 つみ草』。6分ほど歩き、店名の書かれた看板に足を止めると、雰囲気のあるガラス戸の向こうに、小ぶりの一輪挿しやほうきが並んでいる。

日本各地から集められた器や郷土玩具を扱うそのお店で、彼女は人の体温を感じられる「民芸品」たちに巡り会う。

素朴さの中にぬくもりがある生活道具

この吉祥寺の地に開店して10年目になるという『つみ草』は、日本各地の焼き物や暮らしの道具を扱う小さなお店。こじんまりとした店内には、お茶碗や湯呑み、マグカップといった焼き物の器から、籠やほうき、たわしといった生活道具が所狭しと並べられている。

器だけでなく、農具まで置いてあることに驚いた彼女。お店の入り口近くに下げられているほうきの穂先にそっと触れると、店主の小林さんが「そのほうきはもう全国で片手ほどしか作れる人がいないんですよ」と声を掛けてくれた。

お話を伺うと、小林さんはお客さんへの『こういうのもあるんですよ、使ってみてくださいね』という提案の意味も込めて、日本各地から集めた生活の道具をお店に置いているのだという。

「うちみたいにここまで色んな種類の道具を置いてるのは珍しいんじゃないかな」と続ける言葉の通り、その幅広い品揃えに胸を躍らせる彼女。他ではなかなか出会うことのできない民芸品との出会いも、このお店ならきっと叶えてくれるだろう。

加えて彼女が驚いたのは、店内の品物のほとんどは小林さんが直接買い付けをしているという点だ。脱穀の際に使われる箕(み)や籠などの農具は農家でひっそりと作られていることが多く、買い付けの際には小林さん自ら様々な地方へ足を運び、職人を探して1軒1軒訪ね歩くこともあるのだと教えてくれた。

野に出て野草をつむように、日本各地から暮らしの道具を集める。「なるほど、だから『つみ草』なのか」と彼女はひとり頷く。

道具に宿る物語に触れる

彼女が湯呑みやマグカップを眺めていると、お店に1人の女性のお客さんがやってきた。「これはどこのものですか?」「誰の作品なんですか?」という女性の質問に、小林さんが穏やかに答える声が聞こえてくる。こうした会話も、お客さんにとってのひとつの楽しみなのかもしれない。

ほどなくして彼女が手に取ったのは、艶のある黒い肌が印象的なすり鉢。これは岩手の小久慈焼き(こくじやき)という焼き物で、地元の土が使われているのが特徴らしい。、先ほどお客さんに説明しているのを聞いて、気になっていたのだ。

店を後にする女性客の背中を見送る小林さんに、彼女は言う。

「器を選ぶ時に土のことを考えたことなんて今まで一度もなかったので、目から鱗でした」

こうして手に取った道具の物語を知ることで、より一層愛着が湧き、改めて「大事に使おう」という気持ちが大きくなるのかもしれない。小久慈焼きのすり鉢の肌を撫でながら、彼女はそんな風に思った。

伝統から生まれる新しさ

つみ草には、器や道具のほかにも、張り子やこけしなどの郷土玩具もたくさん並べられている。特に、日本ならではの味わいが感じられる張り子は、ひとつあたりがとても軽いので、お土産用に買いに来る海外のお客さんも多いのだとか。

「海外のお客さんだけじゃなく、国内の若い人にも人気があって、うちのお客さんの中にも好きが高じて自分で張り子作家になった人もいるんですよ」

そう言って小林さんが見せてくれたのは、雪うさぎと黒猫がモチーフになった小ぶりな張り子。その愛らしいサイズ感に、彼女の口から思わず「わぁ……!」と声が漏れる。

昔ながらの技術に現代風のデザインを取り入れることで、若い人でも手に取りやすいものを作る作家さんも増えているという。まさに「伝統から生まれた新しさ」だ。

静かに「暮らし」を見つめる時間

「郷土玩具が観光客の方に人気ということですけど、やっぱり海外のお客さんが多いんですか?」

彼女のその質問に、小林さんは言う。

「いや、うちは地元のお客さんが一番多いですね。7割くらいは近所の人じゃないかな」

聞くと、観光客や遠方からのお客さんよりも、お店のある南町や練馬区の関町などからやってくるお客さんの方がずっと多いのだとか。地元の人々に愛されているお店なのだ。

「毎年年末になると、あそこに飾ってあるようなしめ縄をたくさん出すんですけど、毎年買いに来てくれる地元のお客さんもいますよ」

そう言って小林さんが指差したのは、店の奥の壁に掛かった様々な形のしめ縄。各地の職人による手作りで、藁をよる技術は一朝一夕には身につかないのだと教えてくれた。

話し込んでいるうちに、壁掛け時計からぼーん、と味のある鈍い音が鳴って、彼女はふと腕時計を見た。もう1時間経ったのか、と驚きつつ、彼女は改めて店内を見回す。

人の体温を感じる生活道具たちと向き合い、触れる。それは、日々の喧騒から離れて、静かに自分の暮らしを見つめ直す時間だった。

Editor's Note

吉祥寺駅から6分ほどの場所に位置する『器と道具 つみ草』は、日本各地の生活道具や職人や作家による器を扱うお店。マグカップやお茶碗、平皿など、生活の中で触れることの多い食器のほか、愛嬌たっぷりの張り子などの郷土玩具にも出会うことができる素敵な空間です。

お店に並んでいる道具や器についてもっと知りたいという時は、店主の小林さんに尋ねればきっとそのアイテムのルーツや作り手について優しく教えてくださることでしょう。日本ならではの味わいを感じられる道具を探しに出掛けてみてはいかがでしょうか。(編集部 フクシマ)

Shop Access

Shop Info

つみ草

12:00〜20:00

月・火

0422-24-9585

東京都武蔵野市吉祥寺南町2-20-3 吉祥寺フラット 1F

吉祥寺駅 徒歩6分

※取材時期や店舗の在庫状況により、掲載している情報が実際と異なる場合があります。 商品情報や店舗の詳細については直接店舗にお問い合わせください。
Editor 福島みづき
Photographer 橋本越百

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