締めるのではない。装うネクタイ。

彼は、いつも同じTシャツしか着ない。

同じブランド、同じ形、同じ色の無地Tシャツを10枚持っていて、夏はそのまま、冬はコートの中にそれを着ている。

こだわりがあるというよりは、ただ無頓着であるだけの彼だが、例外もある。冠婚葬祭だ。

来月に控えた後輩の結婚式のため、蝶ネクタイを新調しに訪れたのが、吉祥寺駅から徒歩5分ほどの「giraffe(ジラフ)」だった。

ありそうでなかった「ネクタイ専門店」

吉祥寺在住の友人から薦められてこの店を知った彼は、スマホの地図を片手に駅からの道を歩く。

駅前のダイヤ街をまっすぐ抜けた先なので道は簡単だが、どことなく不安だ。理由はわかっている。そう、「ネクタイ専門店」を彼は見たことがないのだ。

実際、世の中にネクタイ専門店はそう多くない。

アパレルショップの片隅にあるネクタイコーナーなら想像できる。しかし、ネクタイだけを扱ったお店というのが、どのような外観なのか検討もつかない。

しかし、その不安はすぐに解消した。ダイヤ街を抜けてすぐ、キリンがお出迎えしてくれたのだ。

情報量の多いネクタイたち

店内をぐるりと見渡した彼は、蝶ネクタイのコーナーに直行する。日頃、スーツにもネクタイにも縁がないので結婚式ではいっそ蝶ネクタイと決めているのだ。

店内の一角を占めるそれらは、一般的なネクタイと比べれば数は少ないが、他の店では見たことのない品揃えだ。さすが、と心の中でつぶやいて、気になったものを手にとっていく。

結び目にハエの刺繍アップリケがついたコレは、いつ使うんだろう…?

「蝶ネクタイをお探しですか?」

思っていたよりも長い時間そこに立ち止まっていたようだ。店長の佐藤さんが声をかけてくれた。

「結婚式があって、着けていくものを探してるんです」

そう答えて目線を上げた彼の目の前に、ネクタイのカーテンがあった。本数もすごいが、それぞれのデザインもすごい。思ったまま「すごい…」と声に出してしまった彼に微笑みながら、佐藤さんが言葉をつぐ。

「ジラフのネクタイは、34℃、36℃、38℃、40℃の4段階の『体温』でジャンル分けしているんです。モノトーンのナロータイなどクールなものは平熱より低い34℃、冒険してるデザインだとパーティーシーンなどで活躍する40℃という感じで」

たしかに、中には着用すべきシーンが思い浮かばないようなものもある。さっきの「ハエ付き蝶ネクタイ」もそうだ。

締めるのではなく「装う」ネクタイ

特に目を引くネクタイのタグを見ると、たしかに「38℃」とか「40℃」といった表示がある。

それそのものが、1枚の ――いや、1本の絵画のようだ。

「面白いデザインですけど… これっていつ着ければいいんですかね」

と笑いながら話す彼に、佐藤さんは

「ちょっとした冒険だと思って楽しんでもらえると嬉しいですね」

と答える。

そうか。彼はネクタイを締めて仕事をしていた頃を思い出す。あの頃のネクタイはまさに「締める」もので、夕方にぐいっと緩めるときまで自分自身を締め付けていた。

しかし、ここにあるネクタイはどれ一つとっても「締める」ものではないと感じる。「装う」という言葉のほうが似合うだろう。蝶ネクタイがまさにそうであるように。

久しぶりに、仕事でつけるネクタイを買ってみてもいいか。

彼のネクタイ選びにはまだまだ時間がかかるようだ。

Editor's Note

実際、私もネクタイはまったく着けないタイプだったのですが、ここの取材では1本購入しました。

いろいろなお話を伺いましたが、とくに面白かったのは「パッチ(端切れ)」のこと。記事の中でも少し触れましたが、ネクタイは生地を「斜めに」裁断して作るためパッチが多く出るのだそうです。

それらを使った小物類もかわいらしく、また、ワークショップでは自分で作ることもできます。

もちろんパッチだけでも購入可能。社内のデザイナーがひとつひとつ練り上げているという素晴らしいデザインの端切れたちを使って何をつくるか。手芸好きの方ならワクワクするでしょうね。(編集長 塚岡)

Shop Access

Shop Info

giraffe

11:00〜20:00

なし

0422-27-6337

東京都武蔵野市吉祥寺本町2-18-8 KOMORIビル 1F

吉祥寺駅 徒歩5分

※取材時期や店舗の在庫状況により、掲載している情報が実際と異なる場合があります。 商品情報や店舗の詳細については直接店舗にお問い合わせください。
Editor 塚岡雄太
Photographer 橋本越百

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